前書き: 記者からの一言
2023年1月に開催されたTEDxICU Bloom 2022に参加した際に、私が最も感銘を受けたスピーカー(登壇者)は川上詩子さんでした。今回は3月に川上さんを取材させていただいた時のインタビュー内容をQ&A方式でお届けいたします。
今回のTEDxICUの対面開催のイベントはICUのコミュニティやインスタグラムのアカウントをフォローしている方々の間では広く知られており、多くの参加者に集まっていただきました。しかし、ICUコミュニティ以外の方はこのイベントに参加することが出来なかったのは残念でした。
川上さんのスピーチで私が最も魅了されたのは、「人生のさまざまな障害を克服する」という力強いメッセージを実際の体験談を勇気をもって語る姿でした。ぜひ皆さんも、川上さんや他のTEDxICU Bloom 2022 イベントのスピーカーの講演をご覧になってください!
TEDxICU ウェブサイト(こちらに今回のイベントや過去のイベントに出演した各スピーカーのトーク動画が開催されています!)
— 本日はお忙しいところ貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。まずはじめに、読者のために自己紹介をお願いします。
川上詩子と申します。今年の4月から国際基督教大学の4年生になります。法学と社会学を専攻します。現在、学生団体「Map The Better」(旧「Voice Up Japan ICU」)の共同代表を務めています。
私はドイツで生まれましたが、1年弱しか滞在せず、その後かなり多くの国や地域に引っ越しました。ですから、人生のほぼ半分を海外で、半分を日本で生活してきました。カナダ、アメリカ、ブラジルに住み、高校の時に日本に戻り国際基督教大学高等学校(通称ICU High) に通いました。
アメリカには2、3歳の頃から帰国するまで住んでいて、当時はそ現地の学校へ通っていたため、そこで英語を学びました。さらに、家族全員が幼少期を海外で過ごしたため、家庭内では日本語と英語を混ぜて話していました。ですので、日英両言語を並行して学びながら育ちました。
— TEDxICU 2022 Bloom Eventのスピーカーになったきっかけは何ですか。
友人にスピーカーになることを強く勧められたのがきっかけです。難病を患ってからの辛い経験がユニークであることと、さらにはイベントが開催される時期が私が留学に行くはずだった時期と重なるからです。今まで多くの人を前にして私の体験について語る機会がなかったので、TEDxICUを通して話したいと思いました。
以前、私はTEDxICUのメンバーでしたが、メンバーはスピーカーになることができないため、色々と部員と相談した結果、TEDxICUを退部してスピーカーになることを決心しました。TEDを退部した後、審査を受けてスピーカーになりました。
— TEDxICUのイベント中や終了後の気分はいかがですか。
正直言って、本当に素晴らしかったです。身近な人がたくさん聴いてくれたんだなと思いました。自分のストーリーを大勢の観客を前にして語る機会は滅多にないので、すごく新鮮な気分でした。自分が経験した苦難にようやくけじめがつかれた気がしました。
初めて大勢の聴衆の前で話すということや、15分のスピーチを全部覚えなければならないという今まで経験したことのないようなこともあり、緊張してしまったこともありました。
しかし、TEDチームの手厚いサポートと何回もリハーサルをする機会があったおかげで、大きなミスをせず冷静に話すことができました。TEDxICUチームは、1年前にメンバーだったので第二の家族のようなもので、共にイベントに向けての準備をする上でとても安心感がありました。
イベントでは、私が診断を受けた当初支えてくれた仲間や今支えて応援してくれている友人が聞いてくれていたので、少し感情的になってしまいました。講演中は涙をグッと堪え、なんとか無事に終えることができました。
「閉ざされた道は新たな可能性。」
2023年1月、TEDxICU Bloom 2022、川上詩子。
— TEDトークで川上さんは高安動脈炎の診断によって失ったことや、それを乗り越える勇気についてお話されました。「閉ざされた道は新たな可能性」というメッセージを自身の座右の銘(モットー)にするまでの過程について教えてください。
当初、難病の診断を受けてからすぐのことは、困難を乗り越えているという意識はあまりなく、日常生活を送っていました。
私の最大のモチベーションでありモットーのひとつは、「私のアイデンティティを病気で決め付けられたくない」ということでした。これは、診断を受けて以来ずっと心に留めていた言葉です。難しいことでもやり遂げたいと思う気持ちが私の背中を押してくれました。例えば、足の痛みや倦怠感が主な症状だったにもかかわらず、文化祭でダンス部のパフォーマンスに出演しました。本当に辛かったのですが、それでも踊りたかったのです。これは、勉強を頑張るとか、新しいことに挑戦するとか、すべてのケースに当てはまります。私は周りの人々に、「病気を持っている子」としてではなく、私の活躍や私が成し遂げていることを元に認識して欲しい、認めてほしいと思ったのです。
数年がたった今、今までの出来事や人生を振り返ってみると、少し皮肉というか、意外なことにも、病気があったおかげで私は自分が予想していたよりももっと目標の達成に向けて前進することができたと思います。悔しいからこそ、挑戦する意欲が湧く。悔しくて、逆に燃える 。これに気がつくことができた瞬間から私は困難を乗り越えたと実感し、それ以来、「閉ざされた道は新たな可能性」という考え方を自分のモットーにしています。どんな困難なことでも、それを乗り越えることで、新しいことに挑戦する意欲が湧いてくる。
「悔しくて、逆に燃える。」
2023年1月、TEDxICU Bloom 2022、川上詩子。
— 他人に自分の状況を理解してもらいたいと思ったことはありますか。自信が持つ難病について打ち明け、人にもっと理解してもらいたい、応援してもらいたい、助けてもらいたいと思ったことはありますか。どれくらい自分の経験について周りの方々に公にされていましたか。
高校時代や大学1年生の頃は、自分の病気についてオープンにするのが好きではありませんでした。病気という大きなものを明かすと、皆の私に対する印象が変わってしまうような気がしたのです。
あることをきっかけに、転機が訪れました。Her Campus ICUのメンバーだった時に「難病の日」を記念して記事を出版しました。記事には難病とは何かということ、そして難病を患っている方々の病気は全て目に見えるとは限らず、日常生活を送っていること、そして自分の体験談を書きました。
すると、記事を読んでくださった5、6名の方々から「勇気づけられた」「難病の実体験について打ち明けてくれてありがとう」というメッセージをいただきました。また、「人に知られるのが嫌で病気のことを話したことがなかったけれど、川上さんの記事を読んで、病気は恥ずかしいことではないことに気づき、これからは話してみようと思った」という方もいました。自分の実体験や苦労について打ち明けることは、自分にとっても他の人にとっても意義があることだと実感しました。
私は、難病のことについて自分からペラペラ話すことはないのですが、聞かれたら正直に話せいます。議論をする際は、病気を通して経験してきたことや考えることを共有することもあります。人に助けて欲しいというわけではないのですが、難病は恥ずかしいことではなく、自分の一部なのだと受け入れ、徐々に周りの人々に打ち明けるようになりました。
「人に打ち明けてはいけない」という考え方や、自分を縛って息苦しくしていた最初のモットーから解放された気がしました。今では、時と場合によっては、打ち明けることが良いことかもしれないと思うようになりました。
— 読者へのメッセージをお願いします。
このスピーチを準備している時に、私よりももっと大変な思いをしている人たちがいるのに私の話やメッセージは少し傲慢に映らないか、ととても心配でした。私のスピーチは、私が経験した苦難と歩んできた道をベースにお話ししていますが、苦難が原因で物事を成し遂げられなくなる人も実際にいます。
私のメッセージの意義は、たとえ悪いことが起こっても大丈夫とか、「苦難は踏み台」というように、成長するために苦難は必要だということではなく、私たちが人生で苦難を乗り越えてここまで来ることができたことに誇りを持って欲しいのです。スピーチを聞いてくださった皆様が、自分の経験やアイデンティティを誇りに思えるようになるきっかけで合ってほしいです。さらに、私の言葉をきっかけに、個人個人が人生を振り返って、辛いことがあったことを認め、その辛さを受け入れ、それを乗り越えた自分を慰めることができたら、嬉しいですね。
— スピーチを終えた今、次の目標は何でしょうか。
まずは、新しい学生団体を立ち上げたいです。Voice Up Japan ICU支部は多くの人が知識を共有し学び合い、自分の意見や葛藤を表現するための重要なプラットフォームでした。新たな理念をもとに、Map the Better を立ち上げたいと思います。
また、大学を卒業したら記者になろうと思っています。記事を通して私のようにステージで発言することができない人々が、自分のストーリーを語ることができるように手助けしたいです。また、社会問題や時事問題、そして時にはハッピーなニュースについても書きたいと思っています。
自分のストーリーは十分話すことができました。次はその経験をもとに、記者として人々のユニークな体験談について発信していきたいと考えています。